2015年2月7日土曜日

メタン発酵実験(序論)

久しぶりの更新です。4か月ぶりですね。ちなみにCompost Projectリーダーの私、幸寺は学校の交換留学制度を利用し、再びフィリピンにいます。4月末までの滞在を予定しています。


さて、9月のフィリピンでのフィールドワークを終えた後、日本で屎尿を模した「擬似糞」によって「メタン発酵」の実験を行っていました。つたない実験ですが、行った内容と実験の流れ、そしてその結果をここに記録しておきたいと思います。ですが、いきなり実験の話に入る前に、おさらいとして活動の背景についてもう一度説明しようと思います。


私たち活動では、現状のところ「エコロジカルサニテーショントイレ(エコサントイレ、ecological sanitation)」の仕組みを利用しようと考えています。

改めてこれまでの私たちの活動の目的と目標を述べますと、

<活動目的>
途上国における水環境汚染の防止と衛生環境の改善を目指すと同時に、生産した液肥と堆肥の販売によるエコサントイレ使用者の所得向上

<活動目標>
    エコサントイレの途上国のニーズに合わせて開発する(小型化、屎尿分離型、移動可能など)
    屎尿由来の堆肥・液肥を農村で生産・消費する
    屎尿の輸送システムを確立して、都市(スラム)の屎尿を輸送し、農村で販売・消費する
    トイレ使用に影響する周辺環境の評価


エコサントイレを利用する場合、屎尿から生産される「尿由来の液肥」と「便由来の堆肥」の継続的な利用、農地への還元が前提となっています。屎尿を使うのは危なくないのか?という疑問も初めのころはありましたが、グリーントイレワークショップというWSで京大の原田英典先生の講演で解消されました。(以下その講演を参考にさせてもらった事柄です)


「尿には病原菌がほとんど含まれておらず、かつその組成が化学肥料の成分に近いため、薄めれば農地に利用できますし、利用しなくても川へ流していても問題はありません。しかし、便に関しては違います。多くの病原菌を含んでおり、そのまま川に流してしまうと水環境の汚染につながり、さらにその水が伝染病の蔓延へとつながってしまいます。ただし、エコサントイレでも行われる「発酵」という作用によって、6か月間容器や便槽に放置しておけばほとんどの病原菌は死滅しているようです。」


このため、エコサントイレでは「便の無害化」にもつながっているので衛生的にも良く、その後堆肥として土壌環境を良くする効果があります。(昔、日本でも江戸から昭和中期にかけて屎尿を使っていた時代がありました。石油化学工業の発展により、徐々に「屎尿利用」から「屎尿処理」という時代になっていきました。)


しかし、問題としては農業従事者が本当に屎尿由来の堆肥や液肥を使うのかということです。一例として、マラウィで衛生面改善のプロジェクトの一つとしてエコサントイレを広めている活動があります。そのプロジェクトを主導しているNICCOという日本のNPOにその点に関してうかがうことが出来ました。


マラウィの人たちは屎尿を使うという文化はありません。なので、はじめのころはその場所の農地を貸してもらい、エコサントイレで得られた液肥と堆肥を用いた農作物が、用いていない農作物よりもいかに収量が多くなるかということをその光景で訴えたそうです。そうしてエコサントイレとその液肥、堆肥の効果を知った人たちから次々にエコサントイレを建設してくれという要望が増えたようです。エコサントイレの半分の費用を住民が出資し、残り半分をNICCOが出資するという形で、一つ家庭に一つ建設されたようです。驚くことに、マラウィの人たちは自分たちで赤レンガを作れるので、それを資材にトイレを作るので、1基作るのに1万円もかからないということでした。(もっと安かったかもしれませんがうろ覚えです。今後追記として載せます) 


つまり、その効果を直接見せ、実感させることによって普及につながったということでした。それに加えて、その他のエコサントイレでうまくいっているケースでは、農業からのアプローチを行っていました。つまり、このトイレから得られる液肥や堆肥が自分たちの収量や収入に良い影響を及ぼすということを訴え、普及させているケースです。これもやはり、目で見て効果が分かればどんどん普及するという印象でした。


一方で、屎尿から作られた農作物ということもあって敬遠する人たちも少なくありません。マラウィのケースでもある村でエコサントイレから得られる堆肥と液肥で作った農作物を得られたとしても、その農作物を村から離れたマーケットで売り出すと、口コミで「あれはうんこからできた野菜だ。食べるな。」ということが言われてしまうのが問題だとNICCOの方は言っていました。そこには、収量が増えて、収入が増えていることに関しての嫉妬も含まれているそうです。(どこの地域の国際協力でも同じような話(支援格差)はありますよね)また、エコサントイレの普及も現地のプロモーターの力に依るところがあるそうで、そうした嫉妬を抱いている地域までトイレが届けられていないというのも一つ問題なのかなと思いました。


つまり、屎尿由来の堆肥や液肥を継続的に使用するというケースでは、まず農業従事者のニーズや堆肥・液肥の使用頻度等を聞き、且つ、屎尿由来の堆肥や液肥の農地利用についての印象を聞いてみないことには、構想のままで終わってしまうような形がします。



それはさておき、屎尿を堆肥や液肥で用いる以外の方法についても考えることにしました。(おそらく乗り越えなくてはならない障壁はあるものの、堆肥・液肥として使うケースは存在しています。有機性廃棄物由来の堆肥を家畜の飼料に使えばいいというアプローチも前回のフィリピンのFWで発見できました。このアプローチも屎尿由来の液肥・堆肥でも使えそうです。)


堆肥・液肥より抵抗が低く、ニーズもあるという形で辿り着いたのが、「メタンガス」でした。メタンガスはメタン発酵から生産できるため、原料が屎尿であってもできる可能性は高いと考えました。エコサントイレでも、便を堆肥として使うまでに「6か月以上の放置」が必要であるということがあり、今後、エコサントイレを小型化し、経済性を出していくにはこれがボトムネックだと考えました。


そのため、「エコサントイレで得られる「便」を堆肥にせず、メタン発酵してメタンガスを出す」という実験を行うことにしました。(ちなみにここまで至ったのも、このプロジェクトが大学の授業の一環で、オリジナリティを求められていたからという理由もあります()

さて、実験の内容に移りたいと思います。

<目的>
・自らの手で「メタン発酵」を扱い、それに関して必要なことを包括的に理解するため
・屎尿の活用が液肥・堆肥として使えなかった場合、「便」を「ガス」として利用できるかを確認するため
・途上国での利用を見据えた素材で効率的に「メタンガス」を出すための比率を求めるため

<大まかな手順>
    擬似糞つくり
    1週間の擬似糞の堆積とさらに1週間の保管
    2週間のメタン発酵
    発生した気体の分析

*条件を変えたところとしては、「②の堆積時の灰の有無、炭の有無」、「③のメタン発酵時の汚泥の有無と汚泥の比率」です。

<実験期間>
2014年10月20日から11月25日(計3回の堆積・メタン発酵実験を行いました)



次の投稿から大まかな手順に分けて、実験の内容を説明していきます。