2015年4月12日日曜日

メタン発酵実験(メタン発酵~展望)

前回の続きです。

③メタン発酵
 メタン発酵は図1のようになっています。
図1 メタン発酵の流れ
酢酸または水素と二酸化炭素を基質としてメタンと二酸化炭素を発生させる過程がメタン生成相と呼ばれ、偏性嫌気性細菌のメタン生成菌の働きによって行われます。メタン発酵を行うメタン生成菌は、
・偏性嫌気性細菌
・菌の活動至適温度は35℃~45℃の中温、または55℃~65℃の高温
・至適pHは中性付近
という特徴を持ちます。
 この特徴を踏まえて、実験装置を製作しました。

図2 メタン発酵実験装置概要
●実験装置の作成 
 三角フラスコの口はチューブを2本取り付けたゴム栓で密閉し、一方のチューブは気体捕集袋に接続させ発生気体の捕集に用い、他方のチューブは内容物のpHを確認するためのサンプル採取に用いました。これを必要数製作しました。

●実験試料、実験条件の設定
また、メタン発酵を行うにはメタン生成菌が必要であるので、実験試料として発酵基質である蓄積物の他にメタン生成菌を含む汚泥(横浜市北部汚泥資源化センターからの提供)を三角フラスコ内に入れ、メタン生成菌と酸素の接触を防ぐために水を加えました。ここに擬似糞を一定の割合で加えメタン発酵を行いました。このときの汚泥:擬似糞の割合は、0ml:400ml50ml:350ml350ml:50ml400ml:0ml4つであり、この全量400mlに水100mlを混ぜました。(汚泥と擬似糞の割合を変えたのはどの割合でならうまく発酵するのか、発酵にうまく作用しているのが汚泥か擬似糞かを明らかにするためです)
さらに、発酵を行っていた間の2週間は、35℃に保温したインキュベーター内に静置しました。下の写真はインキュベーター内でのメタン発酵実験の様子です。

インキュベーター内のメタン発酵実験の様子
④気体の分析
発酵の際に発生したガスは気体採取の2週間の間に3回に分けて気体捕集袋に採取し、VARIAN社のCP-4900 Micro-GCを使用してガスクロマトグラフィーを行って気体の定性分析を行い、また、水上置換法によって容量の測定を行いました。

ここまでが実験内容になります。この実験手順に従いながら、実験の条件を変えていきました。


○実験結果
・メタン発酵を行う汚泥:擬似糞の比率について
灰を入れた擬似糞を汚泥と4種類の割合でまぜ、メタン発酵を行ったところ、水素・二酸化炭素・メタンが図3のように得られました。ただし、単位はmlであり、棒グラフの色は発酵時に発生した気体を捕集した時期に対応しています。(青10/20~23、橙10/23~28、灰色10/28~11/4) ちなみに発生している気体でも気体の組成では窒素や酸素も含んでおり、分析した気体の組成(%)と発生した気体の容量をもとに、算出しています。

図3 メタン発酵の汚泥:擬似糞比率による比較

・炭による比較実験
先の実験より、汚泥:擬似糞=350ml:50mlに水100mlを加えたものはメタン発酵を良く行うことが明らかになりました。追加で実験したものは、この割合にて、灰入りの擬似糞と炭入りの擬似糞、あるいはなにもまぶさない擬似糞に変え、同様に発酵実験を行いました。
炭を使う理由は、灰よりも脱臭効果や塩基性の部分で効果が高いと考えられたことに加えて、灰同様炭も途上国では比較的簡単に手に入りやすいからです。細かなクズの炭は製品として使われることがなさそう(あくまで推測の域を出ません)なので、それを想定した炭の粒子を擬似糞の堆積実験の際にまぶし、炭入りの擬似糞を得ることにしました。
この時メタン発酵実験で発生した水素・二酸化炭素・メタンは図4のようになりました。

図4 灰、炭及び添加物なしでのメタン発酵における気体の比較

○考察
・メタン発酵を行う汚泥:擬似糞の比率について
図3をみると、汚泥:擬似糞=350ml:50mlに水100mlを加えた試料が一番メタン発酵をよく行っていることがわかりました。この割合の試料に着目すると、今回の実験と同様の規模のメタン発酵については、全体で行った2週間の期間のうちおおよそ最初の1週間程度で終了するということがわかりました。また、汚泥を含む試料についてはわずかながらメタンの生成はみられます(図3ではものすごく見づらいですが、出ています)が、汚泥を入れない試料には全くメタンは発生していません。
このことから、灰を入れた擬似糞そのものにはメタン生成を行えるだけのメタン生成菌がいない、もしくは全くメタン生成菌がいない、ということが考えられます。水素や二酸化炭素については、いずれの試料からも微量しか得られなかったため、このことから糞のみを原料としたメタン発酵において水素・二酸化炭素をメタンに変えるような代謝経路があまり有効でないことが考えられます。
なぜ、汚泥:擬似糞=350ml:50mlの割合の試料だけがメタン発酵を活発に行っていたかについてはよくわかりませんが、水素・二酸化炭素由来のメタン生成が微量であることを踏まえると、有機酸由来のメタン生成を行うような菌体が関係している可能性が十分にあると我々は考えました。

・炭と灰の比較実験について
図4をみると、メタンの生成量は「灰入り>炭入り>無し」の順に少なくなっています。灰や炭を入れない試料に関しては灰・炭による中和作用を受けないため、発酵試料のpHが弱酸性になっており、メタン発酵における至適pHから外れてしまったことがメタンの生成が少ない原因であると考えられます。(実際にpHを測定していると弱酸性に偏っていることが確認できました)

以下で炭と灰で違いが生じた理由を考察します。

一つ目に考えられるのは、使用した炭が灰に比べて粒が大きいことがあげられます。8のように擬似糞の堆積物に炭と灰を加えていったが図のように粒の大きさが違うため炭では灰に比べ粒が大きく、うまく全体になじまなかったことによりpHにばらつきが出てしまいメタン生成菌がうまく反応できなかったということが考えられます。

二つ目に、炭では塩基性成分が流出してしまっていた可能性が挙げられます。この炭は東工大すずかけ台キャンパスでバーベキューをしたときに残ったものをもらってで使用したのですが、回収する前日に雨ざらしになってしまったため炭の中の塩基性成分が流出してしまったと考えられます。そのため灰と比べてメタン生成の原料となる酢酸などの有機酸をとどめることができなかったことが原因と考えられます。また、糞の中のにおいの元である有機酸をとどめることができなくなる分、脱臭効果も灰に比べて低く灰を加えたものに比べてにおいが強かったという印象がありました。

炭入りの擬似糞におけるメタン発酵のメタン生成量は劣りましたが、それでも反応が進んだことから、これら2点をを改善すれば炭でも灰と同様に期待できるとわかりました。


○展望
今回の実験において目的で述べた、灰+便,炭+便の混合物からのメタンの生成は可能であるかについての結論としては,両者ともメタン発酵は可能であることが分かりました。しかし、考察にあげたとおり今回の実験では灰を入れたものより炭を入れたものは劣っていることが分かりました。ただし改善点が多くあげられ、同様にメタン発酵をした際の代替できる可能性は期待できると考えられます。

今回の実験を通じて、メタン発酵の原理とその実際の環境を自分たちで作り上げることができたというのは非常に大きな収穫になったと思います。しかし、実際には発生したガスをどのように貯蔵し、利用するのかといった点や、実際に使えるレベルのガスの容量が確保できるのかといった点についてはまだ不明なところが多いのが実情です。

今後、もし時間があれば、炭による実験をもう一度行うとともに、汚泥と擬似糞の比率をより効率的なものを求めること、そして、最終的には実際の糞を用いる実験を行っていきたいと思います。




2015年4月9日木曜日

メタン発酵実験(擬似糞作成、堆積)

実験内容の説明を行う前の想定している屎尿活用システムの流れをもう一度確認しておきます。

〇想定している屎尿活用システム

図1 想定している屎尿活用システム
①トイレの特徴と使用法
・尿と便を分離するタイプの便器を用いており、尿は尿タンク、便は便槽に堆積される。
・大きい方の使用の度には、便に灰を振り掛ける。(条件によってはなにも振り掛けない、灰の代わりに炭、または、戻し堆肥を振りかけることも実験した)
・悪臭を放たない。
・想定するエコサントイレは従来のように建設の際にある程度の土地を必要とするような形ではなく敷地が十分になく、密集地にも適するように、小型化され、移動・設置が容易なタイプが用いられる。

②、③回収、運搬、保管
・1週間おきに便槽の便、尿回収のタンクが回収人によって回収される。
・回収人は回収する便、尿の重さに応じたお金をトイレ使用者に支払う。(貧困層の収入、トイレ使用のインセンティブ)
・回収された尿と便は、加工までの期間、約1~2週間保管される。(念のためのブランク)

④尿の加工、液肥の農地への還元
・回収した尿は薄めて、液肥として農地に還元される。
・加工した液肥は販売され、その中で得られた利益の一部を回収人を通じてトイレ使用者へ還元する。

⑤→⑥または⑧便の加工
・回収した便が堆肥に用いられる場合、病原菌を持たない安全な堆肥として用いるまでに半年間発酵させる。
・回収した便がバイオガス生成のための原料として用いられる場合、ガスプラントの発酵槽に投入される。

⑦堆肥の農地への還元
・生産した堆肥を農地に還元する。
・生産した堆肥は販売され、その中で得られた利益の一部を回収人を通じてトイレ使用者へ還元する。

⑨消化液の農地への還元
・バイオガスプラントの発酵槽で生じる、消化液を加工し農地に還元する。

⑩メタン発酵、メタンガスの利用
・便は1度の投入につきおよそ2週間の期間、メタン発酵され、メタンガスを生じる。
・得られたメタンガスは調理時のガスとして用いられたり、発電の燃料として用いられる。
・ここで得られた利益の一部を回収人を通じてトイレ使用者へ還元する。

〇実験内容の決定までに…
 対象としている地域は、農村部、または都市のスラム街です。農村部では比較的トイレを建設する用地に余裕があるかとは思われるので、そちらでは従来のエコサニテーショントイレでの建設は可能かもしれません。(その場合は便槽も大きくなるので、②、③における1週間おきの回収は必要なく半年間便槽で発酵させることが可能です)

しかし、都市部の河川の水質汚染等を防ぐには、密集し、土地に余裕がないような都市部に適したトイレを検討する必要があります。ですので、①の中のコンパクトなエコサントイレを想定しています。今回実験に用いた、仮のトイレの便槽の大きさも写真1の通り、そこまで大きいものを用いてはいません。

今回の実験では尿は扱っておりません。尿は薄めるだけで、そのほかに特別な処理が必要ないと考えたからです。

一方、便のほうでは、堆肥として用いるのか、メタンガス生成のための原料として用いるのかで、行うべき実験が異なります。いくつかのケーススタディや2014年9月に行ったフィールドワークの結果から、農地に人糞由来の堆肥を用いることに抵抗があることが確認されたので、今回の実験では堆肥ではなく、メタンガスを生産しようという結論に至りました。

屎尿分離型のトイレで、尿は液肥として用い、便はメタンガスの原料として用いるという試みは今のところ、自分たちだけではないかと思います。

したがって今回行った実験は、図1の⑤、⑧、⑩を扱った、エコサントイレから得られる便を用いたメタン発酵実験になります。初めはどのぐらいのメタンガスが出るのか、そもそも、こうした一連の流れを想定した上で、メタンガスがうまく出るのか、というところからわかりませんでした。やってみてのお楽しみでした。


〇実験内容について
<大まかな手順>
    擬似糞つくり
    1週間の擬似糞の堆積とさらに1週間の保管
    2週間のメタン発酵
    発生した気体の分析

①疑似糞つくり
 我々が実験を行うに当たって便の使用が必須ですが、便の出所や実験場所、処理方法等の多くの問題点が浮上したため本物の便を使用することは避け、その代替品として疑似糞を作成することで実験を行いました。

 この疑似糞とは市販のドッグフード120gを水400mlに30分程度浸漬後、そこに市販の堆肥120gを加えよく攪拌したものです。この方法は実際に疑似糞を用いた研究をしている東工大の国際開発工学専攻の中崎先生からご指導いただき、この比率は便の含水率等の情報を基に設定しました。

またこの量は4人家族の1家庭から1日に生じる便のおおまかな量であり、これを1日分として1回の実験につき7袋用意しました。(計7日分、定期的な回収までの日数)

②1週間の擬似糞の堆積とさらに1週間の保管
 今回の実験内容を実際に運用した際を想定すると、メタン発酵を行うためにはある拠点へと便を集積する必要があります。しかしその運搬コスト等を考慮すると、毎日運搬することは非常に困難であると考えられました。従って我々は実際の使用を想定し、とりあえず1週間の間、疑似糞を堆積するという作業を行いました。

 この操作では、1日分の疑似糞をプラスチックの容器(20L)に投入し、さらに条件によっては灰または炭をその疑似糞の表面を覆うように投入するというものを1日の作業とし、これを1つの実験の開始以降は1週間毎日行いました。翌日以降はさらにその上から疑似糞及び灰または炭を投入し、疑似糞と灰または炭が層を成すように投入作業を行いました。またこの操作は東工大すずかけ台キャンパスの図書館裏にある畑の一画で実施しました。

写真1 堆積時の様子
写真2 堆積させた擬似糞が見えなくなるまで灰で薄く覆う
写真3 同様に炭で覆う

次回はメタン発酵、気体の分析、結果の考察を報告します。










2015年2月7日土曜日

メタン発酵実験(序論)

久しぶりの更新です。4か月ぶりですね。ちなみにCompost Projectリーダーの私、幸寺は学校の交換留学制度を利用し、再びフィリピンにいます。4月末までの滞在を予定しています。


さて、9月のフィリピンでのフィールドワークを終えた後、日本で屎尿を模した「擬似糞」によって「メタン発酵」の実験を行っていました。つたない実験ですが、行った内容と実験の流れ、そしてその結果をここに記録しておきたいと思います。ですが、いきなり実験の話に入る前に、おさらいとして活動の背景についてもう一度説明しようと思います。


私たち活動では、現状のところ「エコロジカルサニテーショントイレ(エコサントイレ、ecological sanitation)」の仕組みを利用しようと考えています。

改めてこれまでの私たちの活動の目的と目標を述べますと、

<活動目的>
途上国における水環境汚染の防止と衛生環境の改善を目指すと同時に、生産した液肥と堆肥の販売によるエコサントイレ使用者の所得向上

<活動目標>
    エコサントイレの途上国のニーズに合わせて開発する(小型化、屎尿分離型、移動可能など)
    屎尿由来の堆肥・液肥を農村で生産・消費する
    屎尿の輸送システムを確立して、都市(スラム)の屎尿を輸送し、農村で販売・消費する
    トイレ使用に影響する周辺環境の評価


エコサントイレを利用する場合、屎尿から生産される「尿由来の液肥」と「便由来の堆肥」の継続的な利用、農地への還元が前提となっています。屎尿を使うのは危なくないのか?という疑問も初めのころはありましたが、グリーントイレワークショップというWSで京大の原田英典先生の講演で解消されました。(以下その講演を参考にさせてもらった事柄です)


「尿には病原菌がほとんど含まれておらず、かつその組成が化学肥料の成分に近いため、薄めれば農地に利用できますし、利用しなくても川へ流していても問題はありません。しかし、便に関しては違います。多くの病原菌を含んでおり、そのまま川に流してしまうと水環境の汚染につながり、さらにその水が伝染病の蔓延へとつながってしまいます。ただし、エコサントイレでも行われる「発酵」という作用によって、6か月間容器や便槽に放置しておけばほとんどの病原菌は死滅しているようです。」


このため、エコサントイレでは「便の無害化」にもつながっているので衛生的にも良く、その後堆肥として土壌環境を良くする効果があります。(昔、日本でも江戸から昭和中期にかけて屎尿を使っていた時代がありました。石油化学工業の発展により、徐々に「屎尿利用」から「屎尿処理」という時代になっていきました。)


しかし、問題としては農業従事者が本当に屎尿由来の堆肥や液肥を使うのかということです。一例として、マラウィで衛生面改善のプロジェクトの一つとしてエコサントイレを広めている活動があります。そのプロジェクトを主導しているNICCOという日本のNPOにその点に関してうかがうことが出来ました。


マラウィの人たちは屎尿を使うという文化はありません。なので、はじめのころはその場所の農地を貸してもらい、エコサントイレで得られた液肥と堆肥を用いた農作物が、用いていない農作物よりもいかに収量が多くなるかということをその光景で訴えたそうです。そうしてエコサントイレとその液肥、堆肥の効果を知った人たちから次々にエコサントイレを建設してくれという要望が増えたようです。エコサントイレの半分の費用を住民が出資し、残り半分をNICCOが出資するという形で、一つ家庭に一つ建設されたようです。驚くことに、マラウィの人たちは自分たちで赤レンガを作れるので、それを資材にトイレを作るので、1基作るのに1万円もかからないということでした。(もっと安かったかもしれませんがうろ覚えです。今後追記として載せます) 


つまり、その効果を直接見せ、実感させることによって普及につながったということでした。それに加えて、その他のエコサントイレでうまくいっているケースでは、農業からのアプローチを行っていました。つまり、このトイレから得られる液肥や堆肥が自分たちの収量や収入に良い影響を及ぼすということを訴え、普及させているケースです。これもやはり、目で見て効果が分かればどんどん普及するという印象でした。


一方で、屎尿から作られた農作物ということもあって敬遠する人たちも少なくありません。マラウィのケースでもある村でエコサントイレから得られる堆肥と液肥で作った農作物を得られたとしても、その農作物を村から離れたマーケットで売り出すと、口コミで「あれはうんこからできた野菜だ。食べるな。」ということが言われてしまうのが問題だとNICCOの方は言っていました。そこには、収量が増えて、収入が増えていることに関しての嫉妬も含まれているそうです。(どこの地域の国際協力でも同じような話(支援格差)はありますよね)また、エコサントイレの普及も現地のプロモーターの力に依るところがあるそうで、そうした嫉妬を抱いている地域までトイレが届けられていないというのも一つ問題なのかなと思いました。


つまり、屎尿由来の堆肥や液肥を継続的に使用するというケースでは、まず農業従事者のニーズや堆肥・液肥の使用頻度等を聞き、且つ、屎尿由来の堆肥や液肥の農地利用についての印象を聞いてみないことには、構想のままで終わってしまうような形がします。



それはさておき、屎尿を堆肥や液肥で用いる以外の方法についても考えることにしました。(おそらく乗り越えなくてはならない障壁はあるものの、堆肥・液肥として使うケースは存在しています。有機性廃棄物由来の堆肥を家畜の飼料に使えばいいというアプローチも前回のフィリピンのFWで発見できました。このアプローチも屎尿由来の液肥・堆肥でも使えそうです。)


堆肥・液肥より抵抗が低く、ニーズもあるという形で辿り着いたのが、「メタンガス」でした。メタンガスはメタン発酵から生産できるため、原料が屎尿であってもできる可能性は高いと考えました。エコサントイレでも、便を堆肥として使うまでに「6か月以上の放置」が必要であるということがあり、今後、エコサントイレを小型化し、経済性を出していくにはこれがボトムネックだと考えました。


そのため、「エコサントイレで得られる「便」を堆肥にせず、メタン発酵してメタンガスを出す」という実験を行うことにしました。(ちなみにここまで至ったのも、このプロジェクトが大学の授業の一環で、オリジナリティを求められていたからという理由もあります()

さて、実験の内容に移りたいと思います。

<目的>
・自らの手で「メタン発酵」を扱い、それに関して必要なことを包括的に理解するため
・屎尿の活用が液肥・堆肥として使えなかった場合、「便」を「ガス」として利用できるかを確認するため
・途上国での利用を見据えた素材で効率的に「メタンガス」を出すための比率を求めるため

<大まかな手順>
    擬似糞つくり
    1週間の擬似糞の堆積とさらに1週間の保管
    2週間のメタン発酵
    発生した気体の分析

*条件を変えたところとしては、「②の堆積時の灰の有無、炭の有無」、「③のメタン発酵時の汚泥の有無と汚泥の比率」です。

<実験期間>
2014年10月20日から11月25日(計3回の堆積・メタン発酵実験を行いました)



次の投稿から大まかな手順に分けて、実験の内容を説明していきます。

2014年9月21日日曜日

第一回の渡航 総括

「初めてのフィリピンでのフィールドワークを終えて」

今回の渡航は自分の経験としても大変貴重なものになりました。自分自身でフィリピンに住んでいる方や貧困対策の活動をしている適切な団体などにつながり、すべての予定を組んで行動をコーディネートし、形だけでもフィールドワークが無事にできたのは一安心しました。渡航直前になっても行動予定が決まっていなかったことなどはなかなか不安でしたが、結果的に良い方に転んでくれました。

また、所属しているIDAcademyで決めた安全対策(予防接種や緊急時の対応チャート、安否を知らせる定期的な連絡、感染症発症予防のための帰国後の経過観察など)の試行も一通りできました。(経過観察は今後1か月継続中です)フィリピン自体訪れたのは初めてでしたし、割と全体的に初めてづくしでした。

今回のCompost Projectのフィリピン渡航の目的は、
・フィリピンで活動するために必要な人や団体につながるため
・トイレを開発するために必要な資材の検討
・フィリピンでの生活環境、特にトイレの環境や習慣について知るため
でした。今回は残念ながら「資材の検討」に関してはそれほど時間がさけなかったので不十分であると思っています。

個人的には来年1月から4か月、デラサール大学に留学することも踏まえて、どのように生活するかというイメージも膨らませながら渡航期間を過ごしていました。しっかりとした準備ができればフィリピンでも十分にやっていけると感じました。


中でも現地でスラムの住民にインタビューが無事にできたというのは予定外でした。当初の予定では住民にインタビューするのはとても難しいという思い込みでほとんど準備をしていなかったのですが、現地に足を踏み入れると意外とすんなりできました。もちろん安全面は確保して実施したのですが、インタビューを通じて直接聞かなくては分からない部分があるということも改めて認識するとともに、現地語で通訳してもらわなければわからないような場面でも、たまたま現地語から英語に通訳してくれる方が同行していたということもあって、割と不自由なくインタビューができたのはとてもよかったです。

その点で残念だったことはインタビュー項目に関してあまり熟慮できていなかった点です。インタビュー項目をあらかじめ決めて、それに関する事前知識などが十分にあれば得られた気づきがまた違ってきたように感じます。加えて、インタビューの方法に関してももう少し改善の余地があると思いました。終始、状況を把握することに執着しすぎて形式的になってしまい、それ以外の質問に関してはほとんどしていなかったように感じます。本当はささいな会話の中から価値観や気づきが得られるのでしょうけど、インタビューとなるとどうしても相手は質問を待っていますし、こちらもあるテーマに則ったような質問しかできなくなってしまいます。相手のさまざまな状況を短時間で知るためのインタビューは訓練が必要な気がしました。

今回得られた情報をもとに10月からまた再構築していく必要が感じられました。課題は一番トイレが必要とされているスラムで「トイレで稼ぐ」システムを広めるにはまずトイレをつくるスペースが確保できないということです。可動式のトイレでもいいのだろうと思っていましたが、それが現地の「トイレ」という価値観や常識にはまっていくかという問題もあります。また、スラムで広めるには、トイレで回収した屎尿を利用する場所までの移動をどのように構築するかという問題もあります。広い土地がある農村で回していくには可能性があるかもしれません。


4月からCompost Projectは始まりましたが、やはり何も見ずに想定していることと、現実とのギャップを埋めるには直接現場に訪れないとわからないことが山ほどあります。今回は現状が分かったので、それを踏まえてCompost Projectの計画を考え直すことが必要です。次にフィリピンで活動するまで国内でできることを精一杯やっていこうと思います。



幸寺


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「フィリピン渡航まとめ」

今回のフィリピン渡航では自分に足りないことがいろいろ浮き出てきました。英語力の不足、活動に関する知識の不足、行動力不足などなど様々なことが挙げられますが、最も自分に足りていないなと痛感したことは、海外の人や海外で事業を行っている日本の人と対等に話す姿勢がないということです。日本にいるときは講義をしてくださった教授に質問をしたり、講義の後に話を聞きに行ったりできていたのに、フィリピンにいるというだけでできなくなっていました。今回が三度目の海外ということでまだ海外慣れしていない部分もあるとは思いますが、積極性が全然ありませんでした。

僕の中での今回の渡航の位置づけは途上国の現実を知ることと自分の現状を知ることでしたので、自分に足りないことが分かっただけでも、分からないでこのまま年を取るよりよっぽどマシだと思っています。ですので、次回の渡航で同じ状況になってしまわないように、今回分かった自分に足りないところをしっかりと補えるように今後の行動を考えていきたいと思います。

プロジェクトの方はと言いますと、思ったより多くのインタビューができたと思います。その中で分かったことは今まで考えていたコンポストトイレが現地のトイレの常識と少し違っているということです。実際に使っているトイレも思ったよりきれいでした。今まで考えていたコンポストトイレを構造面でもシステムの面でも再検討してみる必要があると思います。

今回の渡航の目的は広い意味で「現状把握」なので、その意味では良いものが得られたと思います。重要なのは今回得た多くの情報を今後どのように生かすかということなので、気を引き締めて今後も活動していきたいと思います。



古橋

2014年9月19日金曜日

スラム以外のフィリピン人の平均収入について

これまではスラムに住む人たちにフォーカスしていましたが、フィリピンの一般的な職についている人の収入については何も知りませんでした。

台風の影響で何もできない時に数人インタビューして、収入がどんなものか聞いてみました。
インタビューしたのは、以下の人たち。

・Jollibeeの店員
・白タクシーの運転手
・ホテルからタクシーを手配する会社の社員
・ホテルの従業員

旅行をすると必ず接するような身近にいた人ばかりです。


ここで、Jollibeeってなんだ?って思った方のために簡単に説明します。


Jollibeeとはフィリピン華僑のトニー・タンが率いるジョリビー・フード・コーポレーションの運営するファストフードチェーン店で、おもにハンバーガーなどを売っています。普通のハンバーガー屋とは違うのはフィリピンの主食であるごはんメニューやパスタが充実していることであり、もはやハンバーガー屋ではない雰囲気も漂っていました。

実際、暇すぎてジョリビーに2時間ぐらいいたときに店員の働き具合や客の行動などをこっそり観察していましたが、フィリピン人の9割はご飯とフライドチキンが入ったご飯セットしか食べていませんでした。


左の写真のようにメニューボードも真正面がごはんセット、さらにそのメニューの面積がハンバーガーのメニューよりも面積が広いというのがとても興味深かったです。

フィリピンには皆さん御存じ「マクドナルド」はもちろんありましたが、マクドナルドがフィリピンのファストフード業界でシェア第一位になれないのはこのJollibeeにあると言います。(Wikipediaより)

気のせいか、Jollibeeに対抗しようとしてなのかわかりませんが、マクドナルドに行ったときに驚いたのは、ハンバーガー以外にご飯セットのメニューもあり、Mc Riceなるものや、Mc Spaghettiなるものもあったことです。Jollibeeに対抗しているというのはあくまで推測の域を超えませんが… ちなみにこのMc Spaghettiは50ペソ(約120円)でした。味はふつうでした。



(マクドナルドは各国で展開する際に違うテイストを入れているので、どのようにその国に馴染んだメニューを展開しているかをみるのは結構勉強になったりします。)

Jollibeeの話はこれぐらいにして、収入の話に戻りましょう。


〇Jollibeeの店員

店員のREYMさんに話を聞きました。(勤務中だったのであまり話はできませんでしたが)
まず、Jollibeeの時給は42ペソ(カップ麺1個の値段ぐらいです)でした。REYMさんはWorking Student(いわゆるバイトしてる大学生)でありましたが、現在は1科目しかとってないとかで、週6日、1日8時間働いてると言ってました。フィリピンでは月に2回給料が支払われますが、1回の給料はだいたい4000~5000ペソだと言っていました。人によって休める曜日を変えられるそうですが、REYMさんは月曜日が休みであると言ってました。

確か、法律では週に5日、2日は休暇を取らなくてはいけないというのがあったような気もしますが、週6日の勤労は特例で認められているのでしょうか?


〇タクシー運転手

エステというタクシー会社に勤めている方で名前は聞きそびれました。セブでのタクシー会社は数社あるそうですが、白いタクシーが目立ちます。(こちらのタクシーは初乗り40ペソで、割と遠いところに行っても200ペソ~300ペソぐらいで済んでしまいます。ただしマニラは違います。意味わからないぐらい高い値段を要求されます)

この方は1年半前からタクシー運転手をし始めたそうで、以前は商店で店員をしていたそうです。タクシー運転手は1日に300ペソ、月に最大7500ペソの収入があります。


タクシー会社に勤務していると言っても、タクシーのレンタル料金を一日に1000ペソ支払う仕組みらしいです。どういうことかというと、タクシーの運転手が1日に2000ペソの売り上げがあるとすると、そのうち1000ペソは車のレンタル代で会社に支払わなくてはなりません。会社自体は1日に70000ペソ(約17万円)を儲けているらしいです。(つまりエステは70台のタクシーを保有していることになりますね)


1日に1000ペソの売り上げであるととてもいいのですが、ガソリン代などは自分で支払わなくてはならないのでそこが結構します。1リットルが42ペソぐらいしていたので、満タン(40L~50L)入れると、それだけで1600~2000ペソぐらいかかってしまいます。(ガソスタに入っても満タンにはせずに、頻繁にチビチビ入れている感じはしましたけど…)




この方は2人の娘と3人の息子を持っていて、32歳の方でした。32歳で5人の子供って日本では考えられないですね。

〇ホテルでタクシーの手配をする会社の社員

Phil Joyceさんにインタビューしました。ホテルとは別の会社のタクシー業者がホテルのロビーにデスクを構えているところで、暇そうにしていたPhilさんに声を掛けました。Philさんは今年の3月に大学を卒業し、このタクシー会社に入ったそうです。専攻はBusiness Administrationだったそうです。Philさんはまだ20歳で、家族、親戚とともに6人暮らしています。

会社での収入は月13000~14000ペソで家族には月7000ペソお金を渡しているそうです。食費は月1000ペソ、水代月600ペソ、電気代月2500ペソの支出があるそうです。6人家族で住んでおり、これらの支出は母親が出しているそうで、Philさんは月に6000ペソ~7000ペソのお金を自由に使うことができます。

ちなみにPhilさんの母親もまだGovarnmental Officerとして働いているそうで、月に10000ペソ稼いでいるそうです。(どんな職業かはわかりませんでした…)


〇ホテルの従業員
これはPhilさんから間接的に伺ったことで確かかどうかわかりませんが、ホテルの従業員で受付の人の月給は13000~15000ペソ、清掃員は月10000ペソぐらいだと言っていました。(ホテルの受付に直接給料を聞く時間がないほど忙しそうにしていました…)


やはり、自分たちの感覚でもホテルの従業員(受付)はほかの職業に比べるといい給料でした。それでも月に15000ペソ、日本円で約36000円です。物価が安いので月15000ペソあれば十分だそうですが、私の場合、今回の2週間の渡航で無駄遣いしていなくても13000ペソぐらい使っています。(移動費や食費に関しては生活していればもっと切りつめられるのでしょうけど)日本の感覚が抜けていないせいもありますが、同じ学生でアルバイトをしているJollibeeのREYMさんはほぼ毎日しっかり働いても月に10000ペソです。大変な世界だなあと感じざるを得ませんでした。


こうした状況を見ているとちょっと頑張ってバイトすれば国内旅行も海外旅行も飲み会にだって頻繁に行って「ウェーイ!」できる日本の若者は恵まれていると言えます。その分、お金の価値は軽いのでしょう。「お金」という「手段」を何に変えているのか、それが物事を見るのに重要な気がしてきます。

フィリピンでは一日100ペソを稼ぐのがやっとの人もいます。こうした事実や金銭感覚を踏まえて、Compost Projectを通じてどんな利益を生むことができるのか、考えていきたいと思います。












セブの海沿いのスラム

9月17日の活動の続きです。

イナヤワンのゴミ山に行った後は、マザーテレサ孤児院に行き、2~5歳までの子供たちのボランティアをしに行きました。小さい子供をあやすのはとても大変で、全員で13,4人いる子供の子育てというのは本当に大変であると感じました。子育てをまだしたことがない自分たちでしたが、たった1日でその大変さを重々理解しました。


その後、その孤児院があった地区で2件インタビューしに行きました。ここもスラムで、不法に居住している人たちが生活していたのですが、テレビゲームからお店から、パソコンに至るまで、思っていたよりもものに充実している様子がうかがえました。



一人目はElly Moneraさんです。(写真はMonera一家、Ellyさんはお母さんです)


Ellyさん1人の子供を持つ3人家族です。夫は漁師をしていますが、収入が安定しないため、Ellyさんは家でカフェのようなものを営んでいます。この一家の収入は一日に200~250ペソ、月で60007000ペソです。一日の収入のほとんどは食費でなくなってしまいますが、その他にも電気代を月に200ペソ、水代を月に300ペソ払わないとならないので、地主に借金をしてそれを利子つきで返すといった具合で日々やりくりしているようです。利子のつき方は、例えば500ペソを借りたら2か月で徐々に返し、合計600ペソで返す、といった具合です。

一番左がEllyさん、真ん中は息子、右は同行してくれたRohnaさん

右に少し見える階段で2階に行けます

トイレに関しては、自宅にないため、トイレを持っている近所の家に行って一回3ペソで使わせてもらっているそうです。一日に一人だいたい二回くらいトイレを使うとして、Monera一家はトイレだけで月に540ペソを支払っていることになります。この額は電気代の二倍以上もかかっているため、すごい負担になっているのではないかと思われます。そのトイレを実際に見させてもらいましたが、匂いもなく、年季は入っていますがきれいに使われていました。隣に同じトイレもありました。



Ellyさんはこの土地にもう13年も住んでいるそうです。フィリピンでは通常、他人の土地でもそこに二年間以上住んでいるとその人の土地になるのですが、Ellyさんの住む土地は政府のものなので、二年間以上住んでも私有地にはならないばかりか、政府がこの土地の開発を始めたらこの土地に住んでいる人は他の土地に移動しなければなりません。他の住む場所をまだ見つけられていないため、もし今この土地を追われてしまうと住む場所を失うことになってしまいます。(ただ、もう13年も住んでいて何もないので、大丈夫だとは言っていました)

続いて、雨季特有の問題について尋ねたところ、二階にいれば安全だという答えが返ってきました。この周辺の家は皆二階建てだそうで、洪水などがあった時は二階に避難するそうです。そのため寝室も二階にあります。写真の通り海がとても近いので、洪水になることも多いのでしょう。


家の中のキッチンが目に留まったのですが、ここではガスは使っておらず、炭や薪を燃やして調理しているようでした。ですが、これは家の中なので煙が充満することが考えられます。



この地域では外で調理している様子も見られました。一斗缶の下の一部をくりぬいてあり、そこに燃やすものを入れる形でした。(ロケットストーブなどを提供すれば喜ばれるかもしれない…)


一人息子は大学をすでに卒業し、警察官になる準備をしているそうです。警察官になるにはライセンスが必要でその試験の勉強をしているのですが、それをクリアすると将来、自分のお金で家が建てられるほどになるそうです。こうして努力してこのスラムから脱却していくのかと感じました。




二人目はMeralona Cejasさんです。


Meralonaさんは13歳と15歳の二人の娘を持つ4人家族で、娘二人はそれぞれ中学校と高校に通っています。夫は大工をやっていますがいつも職につけるとは限りません。またほとんどの場合が日雇いなので収入は不安定です。Meralonaさんは今年の7月にサリサリストアを始めました。サリサリストアーとはカウンター越しに商品を受け渡しする小さなお店のことで、スナック菓子やバナナなどを売っていました。


Meralonaさんの収入は一日150300ペソで、主な支出は家のローンです。開店資金として5000ペソを借りて購入したものなので、利子つきで計6000ペソを返さなければなりません。一日100ペソずつを二か月間払い続けて返済するそうなので、それだけでも収入の半分くらいはなくなってしまいます。(1日200ペソ売り上げがあると100ペソは支払い、もう100ペソが収入になります)

その他の支出は電気代が月に300500ペソ、飲料水代が約二日分で20ペソ、洗濯等に使う水(雨がバケツ1杯分(10Lぐらい)で2ペソだそうです。(洗濯に使う水すら買います)

ちなみにこの地域には公共の水道管を引いている家庭もありました。そうした家庭は水をMeralonaさんのような、自分の家に水道管がない家庭に水を売ったりするのですが、水道管を引く工事だけでも10000ペソするそうです。

これだけの支出がありますと、食費にかけられるお金が多くても四人で一日200ペソ弱になってしまい、小さいカップ麺一つで約34ペソのフィリピンではとても厳しいことが分かります。


Meralonaさんの家には二階がないそうです。その理由を尋ねると、2004年に火事に遭ったためなくなってしまったとおっしゃっていました。新しく家を建て直す時になって、夫が胃の手術受けたため二階を建て直すお金もなく、そのまま二階なしで生活しているそうです。1階だけの空間はとても狭く、ここに4人生活しているのかと思うと大変な生活であることが容易に想像できました。

雨季特有の問題について尋ねると、2013年にフィリピンを襲った大型台風ハイエンの話をしてくださいました。ハイエンが来たとき、水が腰の高さまできていたそうです



この店の机の縁あたりまで来ていたと言っていました。その際は同じ地域の住民が全員近くのバランガイホールに避難したそうです。排水溝もあるのですが海に直接つながっているため全く機能していなかったみたいです。



今回の渡航でこれだけスラムにインタビューできたのは予想外でしたが、さまざまな状況が把握できとてもよかったと思っています。ただ、「スラムは危険だ」といろんな人に忠告されていた、その意味がはっきりと理解できる光景がありました。


さっきお見せした堤防沿いのスラムを皆でぶらぶら歩いていたら、急にこんな立派な豪邸が現れたのです。

初めは、ここが政府の土地であるので政府関係者の邸宅であると思っていたのですが、Rohnaがこっそり教えてくれました。「これはドラッグを売りさばいている人の豪邸だよ」と。

実際にドラッグが売られている光景は今回見なかったのですが(いや、見ていたらやばい状況)、ドラッグらしき白いものを細い袋に詰めているおばあさんをちらっと見かけたことはあります。その親玉はこんな感じの豪邸を建てます。(おそらく政府の人ともつながりがあるのでしょう。でなければここにこんな家は建てないはずです…)

どこの国にもスラムはマフィアが住み着いていて、ドラッグの売買で生計を立てている人たちもいるという話を聞いたことがあったのですが、こんな形で目の当たりにしてしまうとは思ってもみませんでした。しかし、違う側面でものごとを考えると、こうしたお金を持っている人が近くにいることによって成り立っている生活(お金を借りるなど)もあるのだと思い知らされます。余計に状況が複雑になります。物事を両方の側面で見ると一概に「あれは悪い人たちだ」と言えないのが分かってきます。

スラムは面白くも答えがない難しい世界です。




2回目のイナヤワンのゴミ山訪問

917日はイナヤワンに再び行く機会がありました。前回の13日はイナヤワンのコンポスト施設を訪れたのですが、今回はイナヤワンのゴミ山がひどいところに訪れ、そこで働く人たちにインタビューすることができました。

同行したのは13日にお世話になったDAREDEMO HEROEriさん、KEIKOさん、そしてフィリピン人のRohnaさん、参加者のMickeyさんと計6人で向かいました。

イナワヤンというのはごみの最終処分場であり、簡単にいうと「ゴミ山」です。ゴミ山が見えてくるまでは普通の住宅やお店が並ぶ地域なのですが、徐々にゴミのリサイクル工場や業者の倉庫が見え出し、同時にゴミが道路の両脇にあふれ、すれ違うのものはゴミを運ぶトラックやごみを漁っている人、コンテナなどになってきます。


前回も書いたように、この場所に近づくと強烈なにおいがあたりを漂い、ハエが大量に飛び交っています。この日は少し雨が降っていたせいか、前回訪れたときよりも匂いはきつくなかったように感じましたが、やはり、ゴミ山に近づくと匂います。(晴れているときがいかに匂っているのか、想像がつきません)ちなみにゴミ山はこんな感じ。


これがゴミ山の端のようです。右側にはもっとゴミが広がっているようでしたが、さすがにそこまで登っていく勇気はありませんでした。 また、Eriさんの話によると、4か月前まではこの写真の下に広がっているコンクリートの道路は向こう側までちゃんとつながっていたそうです。ゴミ山の一角が崩壊したことによって道路が塞がれてしまったようです。


塞がれた道路とゴミ山の境目まで行きましたが、こうしたゴミが一面に広がって積み重なっているのかと思うとぞっとしました。そこには溜まった水にハエかなにかの幼虫がうごめいています。プラスチックのごみが目立ちました。滞在中によく行ったJollibeeのゴミも見られ、どうしようもない気分になりました。


この建物も当初はこんなに埋まることを想定していなかったのでしょう。使われるはずの建物が内部はゴミだらけになっていました。この建物の横にはDPS (Department of public service)の管理している家屋とオフィスがあります。この家屋はゴミ運搬用のトラックが待機するような場所みたいでしたが、詳しい説明はうけませんでした。



国の法律で焼却炉が使えませんので、建設もされません。ダイオキシンを発生させないようにするためなのでしょう。しかし、技術も進歩しており、そうした懸念がなくとも焼却できます。フィリピンでは法改正と焼却施設が早急に必要です。


「ゴミ山になぜ人が住んでいるんだろう?」「なんでゴミを漁っているんだろう?」

事前学習した際にも「ゴミを漁って生活している人がいる」とイメージするぐらいで、その明確な理由が分からず、初めてここに訪れた時にも少し冷めた目で見ていました。


この問いに答えを持つにはやはり直接インタビューしないと見えてこないものがあります。
インタビューするだけでも、話さずにスルーしていた時よりも感じるものが違ってきたり、具体的なイメージ・対象としても目に浮かぶようになります。

(これが現場主義というものでしょうか?現地に行ってみないとわからないこと、感じられないこと、得られないことが多いなとつくづく感じています。調査ではもちろんですが、旅をするときにでも、その期間を充実させるには現地の人たちとコミュニケーションを取るということが非常に大切であると感じます。観光だけではわからない、細かい部分の文化や習慣、生活の様子が分かってきますし、同時に旅をしている時に一度話した人たちは経験上、イメージとして残りやすくなります。コミュニケーションを取るということ自体が言語の違いで難しい面も確かにありますが、最低でも英語は操れるようにならないといけないなと自省します。)

少し脱線してしまいましたが、続きを…



彼らにとって、自分たちが思う「ゴミ」とは「生活のために必要なもの」です。単なる「ゴミ」でも、そのあたりのジャンクショップに持っていけば売れる。だから最終処分場といえどもそうした「宝」が埋まっている場所で宝探しをし、生活に必要なお金を稼いでいます。中には子供も宝探しをしていました。(実際に宝石が見つかったケースもあったそうで、あとでその宝石の持ち主が名乗りだし、謝礼として1000万円を渡したということもあるそうです。)

宝探しをしている人の格好としては、長靴、そしてにおいを防ぐための口にあてる布をしており、道具は鉤つきのスティック(漁師がつかいそうなやつ)を持っています。探したものを回収する丈夫な袋も持っています。鉤付きのスティックというのは下の写真のかわいい女の子が右手に持っているものがそうです。



ここで働いている、Johnard Villaricoさんにインタビューをしました。(本人の写真はありません)

この地域にはジャンクショップが7件~10件あります。そのどれもが専門的に何かを取り扱っているわけではなく、どの種類のゴミも買い取るそうです。

買い取られるゴミの種類と価格はジャンクショップによって異なるのですが、

プラスチック(といってもきれいなもの)は1キロ34ペソ(1ペソ=約2.4円)
ペットボトルは1キロ10ペソ
紙(段ボールなどの古紙)は1キロ35ペソ
カンは1キロ1020ペソ

銅は1キロ200ペソ

下の写真は買い取られるプラスチックの写真です。これぐらいきれいに、さらに加工されやすいものでないと買い取られません。


下の写真はJohnardさんがその日に取ったものです。宝探しをしている人の収入は1日で10~200ペソ、月に3000~4000ペソだそうです。


 この地域でも、他の地域同様に子供が多く見られます。少しの時間だけ戯れていた子供たちが急に走りだし、どこに行ったのかと思ったら、その友達の方に駈け出していきました。その友達が「いえーい!Jollibee見つけたー!!」と言っていたそうです。Jollibeeとはフィリピンのファストフード店でご飯ものもあれば、ハンバーガーも売っているのですが、この友達、生ごみの中からハンバーガーを見つけたそうです。でも一瞬見た感じ、完全に腐っていました。それを嬉しそうにパクパク食べていたところを写真に撮ろうとしたら「撮らないでぇ~」と逃げて行った様子が下の写真です。




 お腹大丈夫なのかな?…こういうことが日常茶飯事なので、宝探しをするときも、生ごみから食料を得るときも、かなり身の危険を伴っています。とても過酷な環境です。

生ごみを積極的に回収し、家畜のえさとしてあげている人たちもいるそうです。事実、この地域には他の場所で見られなかったような豚や牛が飼育されていました。


お腹を壊すくらいならまだましなのですが、死の危険を伴ってもいます。下の光景は、新しく外部からごみが運ばれてくる様子なのですが、Rohnaさんによるとこのダンプがゴミを投下する際に下敷きになって死んでしまう人たちも多いそうです。「新しいゴミ」=「まだ誰も手を付けていない、宝が埋まっていて、見つけられる可能性の高いもの」という認識であるそうで、ダンプが来ると一目散に近寄っていきます。



上の写真がその新しく来た「宝の山」に群がっている人たちです。その日何も収穫できていない人たちがとても集中して宝を探していました。


このイナヤワンの最終処分場は危険性も高まってきており、完全に許容量を超えているので、来年の1月には閉鎖するそうです。閉鎖しても消えないゴミの問題。焼却炉ができないとこうした場所がまた違う場所にできていきます。そしてそれを生活の生業にしている人たちも、ここを離れ新しいゴミ山で生活するようになります。焼却炉ができたときはその時でまたこうして生活している人たちが苦しむのですが、どのようにすればこうした人たちの生活と環境問題の防止を実現できるのか。これはとても難しい課題に感じます。



劣悪な環境でも力強く生きる人たちと消えないゴミ問題が依然として残ったままです。ゴミの上に力強く生える雑草、それでも吸収・分解されないプラスチックのゴミ。上の写真のゴミ山に生えた植物がそうした構図を端的に物語っているように感じました。

こうした構図がより良い方向に向かうようにCompost Projectは動きます。